みなさんこんにちは、かいです。
世界的に有名な筆記具ブランドのひとつである『モンブラン』から、1924年(当時の社名はシンプロ・フィラー・ペン社)、ひとつの製品が発売されました。
日本語訳で『傑作』という名を与えられた万年筆、マイスターシュテュック(Meisterstück)です。
もくじ
モンブランの歴史
1906年、ドイツ ハンブルグの銀行家アルフレッド・ネヘミアスとベルリンのエンジニアであるアウグスト・エーベルシュタインはともに、 シンプルなペンを製作することを決めました。
その後ヴィルヘルム・ジャンボア、クリスティアン・ラウゼンが共同経営者として加わります。
彼らは『シンプロ・フィラー・ペン・カンパニー』として会社を法人化しました。
さらにハンブルグの実業家のクラウス・ヨハネス・ フォスが会社に加わった後、ハンブルグのカフアマチャーライエの「インダストリアル・パレス」に 本社を置く「シンプロ・フィラー・ペン・カンパニー」が設立され、商業登記されました。
1910年、創業者たちの会合の中で『モンブラン』というネーミングが生まれました。
これは、前年に発売されていた万年筆のキャップトップに『白い星』をつけたモデルが、ヨーロッパ最高峰であるモンブランの山頂を覆う万年雪をイメージできることから付けられたそうです。
1934年、社名に『モンブラン』の名が入ります。
『モンブラン・シンプロ株式会社』に社名変更されました。
筆記具ブランドとしてのモンブラン
1977年、アルフレッド・ダンヒル社がモンブランの大株主になります。そして1980年代になってモンブランはイギリスのダンヒルに買収されました。
さらに1993年にはダンヒル自体が、スイスに拠点を置く企業グループであるリシュモンに買収された事により、現在モンブランはリシュモン傘下の筆記具ブランドとなっています。
創業から100年を超える年月が経ち、『モンブラン』は筆記具のみならず腕時計、革製品やフレグランスまでを扱う総合ブランドとなりました。
マイスターシュテュック
現代のモンブラン製万年筆の基礎となったモデルは1909年(1908年という説もあります)に発売された『ルージュ・エ・ノワール』という万年筆です。
このペンはその名の通りキャップトップが赤く、また同時期にキャップトップを白くしたモデルも発売されました。
当時から万年筆本体は黒い樹脂で造られており、非常にシンプルな外見でした。
1913年には『ホワイトスター』がモンブランのブランドロゴマークとして採用され、これ以降は全てのモデルのキャップトップにこのマークが入れられる事になります。
そして1924年、初めての『マイスターシュテュック』が発売されました。
この時のモデルは現在のモンブラン製万年筆に比べると若干細身な作りになっています。
ちなみに『マイスターシュテュック』の名を冠されたモデルは万年筆の他にもボールペン、ローラーボール、ペンシルなどが存在しますが、この記事内では特別な指定がない限り万年筆のモデルを指します。
№149の歴史
ペン本体を作る美しい黒色の樹脂は創業以来モンブランがこだわりを持ち続けている『プレシャスレジン』あるいは『モンブラン樹脂』と呼ばれる天然素材で、見事に磨き上げられ手に持った時しっくりと馴染みます。
さらに数カ所に金色の装飾を施されただけのとてもシンプルなデザインは飽きることのない魅力を持ちます。
モンブランのブランドロゴマークである『ホワイトスター』は1913年にすでに採用されていたため、初代のマイスターシュテュックからキャップトップにはホワイトスターが施されていました。
初代の№149
現在私たちが知る№149と呼ばれるモデルの初代は1952年に発売されました。
この初代のモデルは現代のモデルと比べても、とても柔らかな書き味を持っていると言われます。
また初代の№149は同じ1950年代に発売されていた他のいくつかのモデルと同じく、インク吸入方式が『テレスコープ』と呼ばれるモンブラン独自のメカニズムを採用しています。
現代の一般的な『ピストン吸入式』を採用した万年筆は、胴軸内にある一本のピストンがねじり運動をしながら上下する事でインクを吸入します。
『テレスコープ方式』は胴軸内に太い筒と、その中に収まる細い筒が二本仕込まれており、尾軸を回す事でねじり運動をしながら細い筒が太い筒に収まる形になります。
ピストンの作動距離が現代のピストン吸入式よりも長いためにより多くのインクを吸入できます。
このテレスコープ方式を採用した№149は1960年代あたりまで生産されたようです。
またペン先は14金が採用されています。
ちなみにマイスターシュテュックのペン先に刻印されている『4810』の数字はモンブランの標高を表しますが、この刻印がなされたのは1930年からです。
第二世代以降
1960年代のモデルからは現代のものと同じピストン吸入式を採用しています。
№149は年代ごとに色々なパーツを少しずつ変更していますので、明確に『○○年式はこの形』と言った区分けはされておらず、数年間をかけて移行したようです。
中でも比較的大きな変更がなされたのが1980年代中盤からのモデルです。
それまで一貫して『エボナイト』で作られていたペン芯が樹脂製になりました。これは現行モデルまで続いています。
エボナイトとは、平たく言うとかたーいゴムのことです。
厳密に言いますと、生ゴムを長時間加硫して硬化させたものです。
加硫(かりゅう)とは、弾性限界を高めるために硫黄などを加える工程のことです。
ちなみにこの加硫という反応は、アメリカの発明家であるチャールズ・グッドイヤー氏によって発見されました。
発明家ってすごいですよね!
さて、ペン芯の形状、デザインも世代によって変更がなされています。
またキャップに取り付けられているクリップの付け根部分が丸みのある形状であったものが、少しエッジが立ったような形に変更されました。
初期のものを『なで肩』、それ以降のものを『いかり肩』と呼んだりします。
その他、少しわかりづらいパーツになるのですが、胴軸と尾軸の間にある『ピストンガイド』という部分が樹脂製パーツから金属製に変更されました。
このピストンガイドは初代モデルでも金属製が採用されていたのですが、第二世代からは樹脂製に変更されていました。
ただ強度などの関係から、古いモデルを所有している方が近代の金属製ピストンガイドが組み込まれている胴軸に交換する場合もあるようです。
他にもペン先の材質が14金であったり18金であったりした時代もあります。
現代のモデルは18金を採用しています。
またペン先の装飾が三分割されている『帯状』であるものと、外側が金、内側がプラチナ装飾の『中白』と呼ばれるものに分けられます。
画像で挙げているのは帯状のモデルです。
中白と呼ばれるモデルはいちばん内側のモンブランの刻印が押されている部分もプラチナ装飾がなされています。
外側面以外がプラチナ装飾で白いから『中白』なんですね。
『中白』のモデルは1970年代の後半から1990年代中盤あたりまで生産されました。
ちなみに現行型の№149でも帯状が採用されていますが、『プラチナコーティング』と呼ばれるモデルのペン先に関しては金とプラチナの装飾の位置が逆になっています。
他には、細かい点になるのですがペン先と首軸の連結部分が分離型に変更されました。
それまでは首軸が全て一体型だったのですが、ペン芯を囲むような形でリング状の部品が組み込まれました。
初代№149の発売から実に70年近く、このモデルは基本的なサイズとデザインの変更をほとんど経ることなく現在でも販売されています。
№149の魅力
『モンブラン マイスターシュテュック』という名称は、万年筆や筆記具に興味がない方でも一度くらいは耳にした経験があるのではないでしょうか?
わたしが子供の頃は、漫画やアニメに登場する外国製の高価な万年筆といえば真っ黒いボディに控えめな金の装飾が施されているのがステレオタイプでしたが、まさに『マイスターシュテュック』をモデルにしていたのではないかと思います。
1952年に発売された当時から外見上の変更は、細かく見ない限り判りづらいほどに完成されたデザインです。
ボディ全体が美しく艶めく黒いレジン。
クリップ、ピストン部分、キャップ部のみに施された金、あるいはプラチナ装飾。
そしてボディの色と対照的なキャップトップのホワイトスター。
実際に手にとってみて筆記をしてみると、おそらく想像以上に手に馴染む事に驚くであろうと思います。
№149のボディサイズは収納時で147㎜、筆記時(本体の後ろにキャップを取り付けた状態)は167㎜です。
手のサイズが小さめの女性には少し余る大きさかも知れませんが、キャップを尾部に付けない状態ですと比較的持ちやすいと思います。
個人的な事ですがわたしはよほど小さいペンでない限り、キャップを尾部に付けないで筆記します。
その方がわたしの持ち方に合っており、バランスが良いと感じるためです。
わたしの若い時分は『大きめの万年筆というものはキャップを尾部につけて、ペンの後ろの方を持って筆圧をかけずに筆記するのが良いのだ』というマヌケな話も聞きましたが、そんなものは個人の自由です。
好きなように持って好きなように筆記すれば良いのです。
そのように持ちたければそうすればいいだけです。
万年筆が生まれた欧米諸国の方の筆記をみると、少なくともわたしの周りでは普通に鉛筆を持つようにして万年筆を持っています。
そもそもが万年筆というものは筆記をするために生まれたツールなのですから、持ち方にルールを作るなど愚の骨頂です。
人それぞれでいいのです。
わたしが所有している№149は1990年代に製造されたものですが、20数年経過した現在でも特に気になるような不調はありません。
ただ、本体のレジンに大小の擦り傷は増えてきました。
とはいえ、長年使い込んでいるからこその傷であり、ひとつの魅力のようになっていると感じます。
正規品の定価はかなり高価ですので、できるだけ大事に長い間使いたいというのが人情です。
万年筆はモンブランに限らず他のメイカーのものでもかなりしっかりと作られています。
製品の質は直接そのメイカーの評価につながるからです。
そのため、多くの万年筆は10年単位で使用することができ、メインテナンスをしっかりとしていれば60年以上昔に製造されたものであっても現役で使用できるのです。
わたしはこれまでにそんなに古いマイスターシュテュックを見た経験がないのですが、古い万年筆はボディ内部のメカニズムのほか、ペン先のさらに先端、『ペンポイント』と呼ばれる部分も注意しておくことが必要になります。
この部分には非常に硬度の高い『イリドスミン』あるいは『オスミリディウム』という金属が使われています。
耐摩耗性を高めるために硬い金属を使用しているのですが、何十年も使用しているとどうしてもペンポイントがすり減ってきます。
ペンポイントがなくなってしまうと、ペン先自体を交換するしかありません。
オークションサイトなどでもペン先だけの出品をしている方が稀にいますが、やはりそれなりに高価です。
モンブランの偽物
正確に流通しだしたのがいつ頃からなのかは不明ですが、モンブランの筆記具にもフェイク(偽物)が多く出回っています。
色々と調べたところによりますと、かなり精度が高く模倣されており、一目みただけでは真贋の判別が難しいようです。
ただ細かいところまでチェックしていくと、本物とは異なる部分が見つかるという事です。
実をいうと、わたしもモンブランのフェイクをひとつ所有しています。
モンブランのフェイクが出回っているという話を以前から聞いて知ってはいたのですが、実際にどのくらいのレベルで模倣されているのかを知りたくなり、あるオークションサイトで明らかに相場より安価で出品されているボールペンを落札しました。
確か新品という説明ではなく、中古美品のような説明だったと思います。
果たしてそれがフェイクだった訳です。
結論を先に言いますと、実際に筆記してみると『本物ではないな』と判りますが、それでも外観を一見みただけですとおそらく偽物と見抜くのは少し難しいと思いました。
わたしもモンブランシリーズのフェイクをいくつも手に取ってみたわけではないのですが、わたしが『これはフェイクだな』と判ったポイントを説明します。
ボールペンはモンブランのシリーズに限らずだと思いますが、購入するとリフィル(ボールペンでいうところの芯)は本体に入った状態で到着します。
そして本体をツイストさせる事で筆記状態になるわけです。
そのまま筆記を始めますと、本物の場合はリフィルのガタ付きなど全くおこらないのですが、フェイクはこれがありました。
筆記しているとリフィルが僅かにですが動くのです。
文字を書いているときは、その文字によって縦や横に線をひいたり斜めにはらったりとさまざまな方向にペン先を動かしますが、そのときにペンの先端には圧がかかります。
その圧に負けてペン本体の中のリフィルがほんの僅かではありますがガタつくのです。
本物のモンブランのボールペンは筆記状態にするとペンの先端から握っている位置までまるで一本の棒のように剛性が高く、筆記していてもペンの先端が動くことはありません。
この理由はフェイクの本体の中の加工サイズが本物とは若干異なっているために起こるのかもしれませんね。
もうひとつ、比較的簡単にフェイクと見抜けた点はボールペンの口金先端部です。
画像を見ていただけばなんとなくわかると思いますが、フェイクの方は口金の仕上げ具合が甘いですね。
よくよく見ると口金の内側にほんの僅かですがバリのように見えるものも残っています。
本物の方は口金の先端まで綺麗に面取りがしてあり、美しく柔らかい印象を受けます。
あと、これは年式ごとの仕様なのかもしれませんが、クリップ先端のアールも若干異なっています。
右側が本物のモンブランです。
左側のものと比べるとクリップ先端の形状が異なっています。
わたしはモンブランのフェイクについてはボールペンしか持っていないのですが、万年筆もフェイクモデルが多く出回っているようです。
国内外を問わずたくさんの方がモンブランのフェイクモデルについて取り上げていますが、モンブランの製品については年式などでも細かい変更点があるため、よほど精通している方でなければ精巧に模倣されたものを見抜くのは難しいかもしれません。
クリップに刻印された文字やシリアルナンバー、またそれらの字体でも真贋を見抜けるようです。
とはいえ本物の製品を同時に手にとって見比べるならそうでもないでしょうが、初めてモンブランの製品を購入する方がオークションサイトなどを利用する場合は注意が必要かと思います。
ヘタをすると販売している側もフェイクだと知らずに出品しているということもあり得ます。
オークションサイトでの価格相場も消して安価なものではないですので、せっかく購入したペンがフェイクだった、という事のないようにしたいですね。
さまざまなマイスターシュテュックのモデル
現代でも販売されているマイスターシュテュックのシリーズはその大きさによっていくつかに分けられます。
いちばん大きなサイズである№149のほか、かつて№146とも呼ばれていた『ル・グラン』、同じく№145と呼ばれていた『クラシック』などがあります。
現在のモンブラン公式サイトではナンバーを付けて呼んでいるのはフラッグシップモデルである№149のみで、他のモデルは名称のみを使用しているようです。
現在では廃番となってしまいましたが、№145よりもさらに小さな№144というカートリッジ・コンバーター両用式モデルや、№114『モーツァルト』というカートリッジ式のモデルも存在しました。
少しややこしい話なのですが、№144はかつて『クラシック』と呼ばれていました。
そして現在『クラシック』の名を冠されている№145はかつて『ショパン』という名称でした。
マイスターシュテュックのシリーズとサイズが細分化されすぎたので、現行の3つのサイズに絞ったのでしょう。
最小モデルであった№114は筆記時のサイズが120㎜弱、収納時のサイズは114㎜しかなく、手の小さな女性でも扱いやすいペンですが、それでもマイスターシュテュックの名を冠された美しい万年筆です。
また同じく現在では廃番となりましたが、ボディカラーがボルドー(暗赤色)のモデルも存在しました。
このモデルの中には首軸が黒いものと、首軸も含めて全体の色がボルドーのものが存在します。
マイスターシュテュック ソリテール
同じく『マイスターシュテュック』の名を冠したモデルで、ボディパーツに貴金属などを使用した『ソリテール』と呼ばれるものがあります。
これは厳密には№146、№145を元にしたシリーズで、ステンレススチール、スターリングシルバー、シトリンなどを使っているものと、ボディは一般的なマイスターシュテュックと同じくプレシャスレジンを使用し、キャップ部分のみに貴金属を用いた『ドゥエ』と呼ばれるモデルが存在します。
つまり名称に『ソリテール』と付くものは貴金属などをパーツに用いたモデル、『ソリテール ドゥエ』と付くものはボディがプレシャスレジン、キャップのみ貴金属を用いたモデルということです。
最近のモンブラン公式サイトを見ると、ソリテールシリーズの中にもボディパーツにレジン以外を用いたモデルに『ドゥエ』の名をつけたものが存在するようです。
さらにソリテールのシリーズも年々新しいモデルが追加、あるいは廃番されているようです。
ソリテール、ソリテール ドゥエのシリーズは美しい仕上がりのものが多いのですが、マイスターシュテュックの中でも高価な価格帯にあるモデルですので、複数本を所有している方はあまりいないかも知れませんね。
まとめ
100年以上の時間をかけて世界的なブランドとなった『モンブラン』は、会社設立当初の筆記具メイカーではなくなりました。
それでも、マイスターシュテュックシリーズの万年筆は現在でも初代発売時と同様、職人の手作業による仕上げ工程を経て世に出ています。
数十年前に作られた万年筆が今もどこかで存在し、多くの人によって愛用されています。
古く美しい万年筆を所有している皆さん、そのペンをこれからも大切にしてください。
それでは、本日も良いカキモノ日和となりますように!