Der bitter kuss

みなさんこんにちは!かいです。

今回はずーっと以前から設定や内容を考えてきたお話を少し載せようと思います。

プロローグ

澁谷瑶は、幼馴染みである尾崎淳から、こんな話を聞かされていた。

淳には今、たまらなく好きな男性がいるのだという。

「そうなんだ」と瑶は応えた。抑揚のない、素っ気ない返事であった。

内心、瑶は「またか」と思っていた。ここ数年、彼女から

「好きな人ができた」

と聴かされる頻度がやたら増えてきたからである。

夢見るような面持ちで「愛しの彼」について語る彼女を、ストローをくわえ乍ら瑶はぼんやりと眺めていた。

柔らかな青草の匂いを含んだ微風が、瑶の頬を撫でて通った。

時折り彼女は、憶い出した様に目の前にあるティーカップを手に取り、琥珀色の液体を一口啜った。

透ける様な白地のカップだった。

4月の日差しを受けて、白い把手の縁で小さな光が踊っていた。

「それでね」

と、弾ける様な明るい声を上げながら、淳は白いカップをソーサーに戻した。

にんまりとした表情を作り、テーブルを挟んだこちらに身を乗り出すようにして両手の指を組む。

その右手で碧い石がきらめいた。

笑みを浮かべた淳の表情は、どちらかといえば丸顔のシルエットとも相まって、とても人懐っこく見える。

笑顔のどこにも、嫌味や慢心が見当たらない。

小学校に通っていた頃からの付き合いだが、淳のこの笑顔は昔から変わらないままだ。

瑶の返事を待つかのように呼吸をおく。

彼女のいつもの癖だった。

自分の話に相手を引き込もうとする時、彼女は決まってこういう表情を作る。彼女のこの作戦が、瑶以外の彼女の友人に通用しているのかどうかはわからないが、瑶はいつも通り「うんうん」と頷きながら、手元のグラスから伸びるストローをくわえた。

瑶も瑶で、淳の言葉に対する返事の一つ一つに感情がこもってないのだが、淳は怒る様子もいらついた様子もない。瑶の返事がいつもこうだという事を、彼女もよく判っているからだ。

僅かの時間の後、アールグレイの香りとミルクの仄かな甘味が瑶の口の中に届く。

砂糖は入れていない。

茶葉の香りを直に楽しみたいからだ。

その感触を堪能する前に、淳が再び口を開いた。

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